日々是好日

死ぬまでハッピー!

舞台『リビング』 感想

期間:3月2日~7日

劇場:赤坂レッドシアター

公式サイトに載っているあらすじはこんな感じ。

主人公・マタロウは、会社を辞めて家に引き籠っている。
不動産屋の営業をしていた彼は、客のクレームに耐えきれず現場から逃げ出したのだ。
しかし、彼が逃げ込んだ筈の家の中も、様々な問題に溢れていた。

無職で呑んだくれの父親、長年付き合っていた恋人、出て行った母、そしてその愛人、 職場復帰を説得しに来た不動産屋の二代目、 クレーマーだった客までやってきて…混乱の極みに達した家族の問題を解決するのは誰か。
喧騒の中で、家族の愛が燦然と輝き始める……かも知れない。 

 

さて、感想です。

作演が荻田浩一さんということで、私の中では「ニジンスキー」のイメージが頭を占めていました。耽美!性!愛!美!みたいな。

でも幕が開けてみると、そんなことはなかった。薄暗い感じはあるし悲壮感漂ってるし視覚的に楽しめる美しいシーンも盛りだくさんだけど、コメディかって言われれば首を傾げたくもなるけれど、私の持つイメージは壊されたかな、と思います。

主人公のマタロウは2階にも上がれず現実から目を背けてリビングで生きているわけだけど、それこそマタロウの生を止めていることになってて。だからその場所を出ることが、時を進めることになる。

このテーマって先日観たポンコツバロンの「回転する夜」にも通ずるものなんだけど、向こうのノボルが「俺の部屋」を出たことによってきちんと生きていく道を選べたエンディングに比べて、このマタロウがリビングを出るってことは結構残酷で、でもまたリビングにいるマタロウを見れるってところで救いを見出せた気がしました。

 

マタロウも、ミヨさんも、ミツオも、あの家族はたぶんみんな逃げる人ばっかりだったんだろうな。と思う。

夢見がちというか、みんな現実から逃げて見たくないものから目を背ける。それで何かを失っても、失ったことさえ認めたくなくて、また逃げる。

でも放っておけない魅力がそれぞれにあるから、ショーちゃんもシズカちゃんもあの家に通ってしまうんだろうなあ。

私はこの話を愛がテーマの話だとは思わなかったけれど、結局は愛に支えられてる話なんだろうな、と思った。行動する原因のまんなかに愛があって、「しょうがないじゃない、愛してるんだから」って言われてる気がした。

愛してるから守る、愛してるから何も言わない、愛してるから隠蔽する。それがどんなに不道徳でも、愛が理由ならそれをやめさせることはできなくて。でもやっぱり、それを正す理由もまた、愛なんだよね。

 

この家族のリビングに入ってくる4人もキャラが濃かった!

ショーちゃんはミヨさんの愛人でミヨさんを愛してるけどそれを通して息子のマタロウにもたぶん愛情を向けていて、これは演じてる大野さんが透けてるのかもしれないけど、所作がひとつひとつ流れるようにしなやかで綺麗。ふと左耳のピアス?を指でなぞるしぐさがセクシーだったなあ。お人好しで、愛することを怯えないひと。最後のタンゴではミヨさんやシズカちゃんを相手にしているときももちろんだけど、存在しない相手を見つめながらひとりで踊ってる姿が美しかった。舞台上でたくさん笑うし場を明るくもするのに、どこかずっと切なくて悲しいひと。白シャツに黒ズボンが大正解すぎた。

シズカちゃんはパワフルでキュート!まさか荻田さんの舞台で聞くとは思っていなかった単語をたくさん聞けて面白かったなあ。セーラー服は丈が短くてどきどきしてしまった。心の中で何回も「かわいい!」って叫んでました。足さばきや体の使い方がダイナミックで見ていて気持ちよかった。そんな大胆で自分に正直なシズカちゃんだけど、マタロウには可愛い100パーセントで接さないのが逆に可愛い・・・。マタロウを救った愛はシズカちゃんのものが強かったんだろうなあ。

ハットリさんは、ずるすぎた!さすがの飛び道具だった!声が大きすぎてびっくりした!神経質で典型的なオタクで見ていて気まずくなる感じが心地よかったです。恐ろしく順応力が高いし、するっとリビングの内側に入っていて驚く。でもそれがたぶん空気を読まないハットリさんの特性で、あの舞台の色を鮮やかにしていたのはハットリさんなんだろうなあ。ノビさんと一緒に中盤から登場して動きを加える、まさにスパイス的存在でした。

そして、ノビさん。やっぱり目で追ってしまったし、意識的に「この人はどんな人かな」と観察してしまったんだけど。なんというか、この7人の登場人物のなかでいちばん「外」の人だなあと思いました。ご近所さんだし元上司だしマタロウとシズカちゃんの元家庭教師でもあるのに、たぶんあの中でいちばん場に順応してなくて状況を理解してない。だから、そういう意味ではいちばん観客に近いんじゃないのかなあ。ノビさんの表情を追ってるとほんとうに隙がなく困惑してて、ずっと楽しいです。ツッコミしてたり巻き込まれたりミツオさんに叩かれたりショーちゃんに叩かれたりわりと散々で、でもすごく良いポジション! でも、ノビさんはドラえもんで言うところの「のび太」だから「しずかちゃん」に恋をしてるんだけど、この舞台において主人公はのび太じゃなくてマタロウだから結ばれることはないんだよね。それをノビさんもわかってて、シズカちゃんに気づかれるような素振りも見せないし、諦めてる。だってあのふたりお似合いじゃん、って笑うことができる。これも理由はきっと愛なんだよなあ。この愛はシズカちゃんへ向けてるものだけじゃなくて、元教え子で部下でもあるマタロウへの愛もあって。マタロウからシズカちゃんを奪えない臆病な人なんじゃなくて、自分の気持ちよりも好きなひとの幸せを優先できる強いひとだ、と思いたいです。

 

長々と綴ってしまったけれど、これからの観劇で感想が変わりそうな気もする。そしたら加筆します。

舞台『リビング』、たくさん考えさせられるしたくさんの感情をもらうことができました。

またひとつ、すてきな舞台に出会えて嬉しいです。